将棋の館−盤上のドラマ−栄冠は光の彼方に!−燃えろ谷川!−/試練の時

試練の時


    挑んでも挑んでも、叩きのめされた。第43期名人戦七番勝負(昭和60年)は、挑戦者の中原王将が圧倒的な強
  さを発揮。
    第1局から無傷の3連勝!
    地力の違いを見せつけ、たちまち谷川をカド番に追い込んだ。

    第4局、序盤に不用意な飛車先交換。たちまち中原の先制パンチが火を噴いた。
    対策に苦慮する谷川は思わず長考に沈む。やがて、妙手△36歩をひねり出し、何とか踏みとどまった。
    しかし、局面は中原優勢で進展。
  ”現役名人がストレートで敗れるのか・・・”(この当時は、現役名人はストレート負けを喫したことはなかった。)
  
    控え室が危惧するなか、谷川は必死の勝負手を放つ。△69銀。タダ捨ての銀の王手。
  ”取れば受けなし!”
    谷川も中原も、そう読んでいた。
    だが・・・
 ”え?”と控え室。そう、▲69同玉と取り、谷川懸命の寄りつきには”受け”があったのだ。つまり本当は△69銀
  は▲同玉で中原の勝ちだったのだ。
    谷川・中原の二人とも同じ錯覚をしていたことになるが、プロの対局では時々あるようで、もしこの時どちらかが錯覚
  に気づいたら、その瞬間相手も気づくことだろう。
    プロの対局者の間には、一種の電波が飛び交っているのだろうか?
    僕はしかし、谷川の必死の気迫が中原を誤らせたと信じたい。
  苦しんで苦しみぬいた末、ようやく1勝をあげた。

    多少余談になるが、この後おこなわれた第2期アマ王将戦。招待選手として参加した谷川俊昭選手(もち、谷川さんの
  兄上である!)は、”優勝して弟を元気づけたい。”と語り、その言葉の通り苦戦の将棋を逆転してV2達成!
    弟を勇気づけた。
    兄からのパワーを受け取ったか、第5局は谷川快勝!
    
    ”奇跡”への思いを込めての第6局。しかし、このシリーズ最後まで、中原の相掛り速攻に苦しめられる。
    2日目になり、中原が大きく優勢を築く。谷川に逆転の妙手はなかった・・・
    
   つい2年前まで、いや、ついさっきまで、名人戦の主役は自分だった。しかし、今は・・・
    中原はかつて著書の中で、”名人を失った時の気持ちは、とても言葉であらわせない。”と記していた。
    それと同じ思いを、このとき谷川は知ることとなった・・・

    谷川の試練はまだ続く。同じ年の秋、名人失冠の痛手に耐え、王座戦の挑戦者として名乗りをあげた。しかし、またして
  も中原の前に3−1で敗れ去る。
    冬、棋王戦・・・谷川に待望のタイトルが!桐山をストレートで降し、名人以外で、初のタイトルを獲得した。
    しかし、この頃の谷川は、まだ安定感に乏しかった。
    翌年の挑戦者は高橋道雄王位。
    腰の重い高橋を崩せず、3−1でタイトルを明け渡す。
    2度目の無冠。しかも相手は先輩強豪ではない。
    
    ”あんなに大好きだった将棋が・・・今は盤の前に座るのがつらい・・・”
    
    将棋雑誌にこう書いていたのは、この頃だった。

    この試練を、谷川はどうやって乗り越えたのだろうか・・・

早すぎた頂点

王道制覇