将棋の館−盤上のドラマ−/死闘!激闘!熱闘列伝/▲76飛の真実

▲76飛の真実

第57期名人戦7番勝負第6局 佐藤康VS谷川

△66歩の局面

佐藤康VS谷川1図

 まだ記憶に新しい今期(1999年)名人戦。初防衛を目指す佐藤康光の前に立ちはだかったのは、3度目の名人復位を狙う
谷川浩司。昨年と立場を逆にしての対決は、
 第1局 後手佐藤横歩取り33桂戦法 佐藤勝ち
 第2局 後手谷川横歩取り85飛戦法 佐藤勝ち
 第3局 先手谷川角換り腰掛け銀戦法 谷川勝ち
 第4局 先手佐藤38飛戦法 後手谷川四間飛車 谷川勝ち
 第5局 先手谷川角換り腰掛け銀戦法 谷川勝ち
の推移をたどって第6局、谷川の四間飛車に、カド番に追いこまれた佐藤は得意のイビアナ。
 金銀四枚、これ以上はない堅さに囲って作戦勝ち。谷川、勝負手を連発して必死にイビアナを崩しにかかる。
 しかし佐藤、桂香を好所に配置し、谷川陣に襲いかかる。崩壊する谷川陣−しかし、上図の△66歩が怪しい手。
 
 ▲63銀打ち△同銀▲同銀不成△65玉▲66歩△同玉▲67歩△57玉▲68銀△同玉▲78飛△59玉▲52竜△55歩
 ▲58金△49玉▲48金打ち△39玉▲79飛△49金▲同金△同と→佐藤康VS谷川2図

 △66歩は△77歩成▲同玉△65桂以下の詰めろだそうだ。ここで▲56金と打てば、これまた詰めろ逃れの詰めろで勝ち筋
だったが、佐藤消費できる最後の1分を使って▲63銀打ち以下詰ましにいったので大事件となった。
 佐藤1分将棋にもかかわらず、頭をかかえてしまったそうだ。この時、彼の胸中を去来したものはいったい何だったろう・・・
 昨年やっとつかんだ栄光の名人位を手放さなければならない。
  しかもつい数時間前までは必勝だったのに・・・
 佐藤投了、谷川名人誕生−誰もがそう思ったその時・・・
 
△49同との局面
佐藤康VS谷川2図
 ▲76飛△85桂▲89桂△75歩▲79飛△96歩▲同歩△76銀▲78香△96香▲76香→佐藤康VS谷川3図  しかし佐藤は指した、▲76飛!ここで、あるいは△75歩のところでも△93角と逃げつつ角を攻めに使えば、谷川の勝ち は不動だったようだ。  だが、これはあくまでも結果論。谷川は疲労していただろう。開戦以来ずっと苦戦を強いられようやく勝機が訪れた。  −相手は投了、勝った!−そう思っても不思議はない。そしてこの時、谷川の”戦闘モード”は一時中断した。  しかし、佐藤は投げなかった!  ▲76香の局面
佐藤康VS谷川3図
 △77銀▲同桂△98香成▲同玉△91香▲96歩△同香▲89玉△88歩▲78玉△77桂成▲同玉△76歩▲86玉  △81香▲84桂△同香▲95玉△83桂▲84玉まで佐藤勝ち  △77銀で△77角なら詰んでいたようだ。以下▲同飛△98香成▲同玉△97歩▲同桂△88金▲同玉△77桂成  ▲同玉△76歩以下・・・  23時43分、谷川の手から扇子がポトリと落ちる。あるいはこの時、不詰みに気づいたのだろうか、そして自分の負け に・・・  23時54分、ほとんど日付が変わろうとしている時、谷川投了。  終局後、己のミスに唇を噛む谷川。声を出すことはおろか、しばらくは顔をあげることさえ出来なかった佐藤。  シリーズは前年同様、最終局に持ち込まれた・・・  さて、ところで佐藤はどんな心境で▲76飛と指したのだろうか?名人の意地か?はたまた執念か?それとも投げきれな かったのか・・・  実は・・・1分将棋がずっと続いていて、時間に追われて指したそうだ。負けだとは思っていたが、投げる局面ではないと。  もう少し持ち時間があれば、敗勢に気づいていたそうだ。  しかしこのことは佐藤名人の価値を下げるものでも、この第6局の価値を下げるものでもない。  むしろこの将棋の最後のドラマといえるだろう。
時を戻せるのなら・・・ 第5期竜王戦7番勝負第7局 谷川VS羽生

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