将棋の館−盤上のドラマ−/棋界エピソード集/本気の本気
先崎が新鋭棋士だった頃、森の将棋に憧れていた。 その憧れの森との対局、先崎は坊主頭で臨んだ。憧れの先輩と対局できる喜び、その対局に臨む真摯な姿勢からだった。 だが当の対戦相手の森は、そのように受け取っていなかった。 ”また師匠に説教でもされたんだろう。” 当時の先崎は、若気の至りか、師匠米長の逆鱗に触れること、しばしばであった。 この日の坊主頭も、師匠から坊主にでもなって反省しろ、とでも言われたものと思ったのだ。 それではあまりにも先崎が不憫というものだ。 みかねた河口俊彦が、森に言った。 ”そうじゃない、君と対戦できるのがうれしいから坊主になったんだ。” この言葉に胸を打たれたか、森は休憩時間も盤の前を離れず、全力を尽くして新鋭先崎の挑戦を退けた。”体で覚えた将棋を教えてやる。”
棋界エピソード集